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座談会 被災高齢借家人の悲哀とそのたたかい

入居を拒まれる独居の高齢者

山本 皆さんお忙しいところをご苦労さんです。
 あの一月十七日におきた大震災から、一年近くがたちました。その後、全・半壊の被災者は仮設住宅にいる人も、そうでない人も、それぞれに大変な生活を送っている現状だと聞いています。今日は特に尼崎における被災借地・借家人の実態について詳しい皆さんがたにお話を聞かせていただくことになり、感謝しております。司会は佐藤さんにお願いしておりますが、私も時々質問させていただきます。どうかよろしく。

司会 それでは、弁護士の上原先生からお伺いします。まず震災関連と推定される事件の概数はどのくらいですか。

上原 一月はゼロ、七月から九月までで一三七件もあります。例年より非常に増えています。この間、調停が不調になってですね、家主さんが本裁判にかけると予想されている一つの例をお話しします。この件は、七七歳、七四歳、五五歳の後家さんですけど、七七歳の方は生活保護の受給者、七四歳の方は主に遺族年金、五五歳の方は年金ぐらしの方です。いずれもその収入は月十一万円から十五万円です。生活保護で毎月十二万円ですから、この七四歳の方は生活保護者より低い収入なのです。この収入の中から払っている家賃はだいたい月三万円ですから、生活はギリギリなんです。
 こんな状態のとき、大震災で家が壊れたため、明け渡してくれとの要求が出されたのです。
 ここでの大きな問題点は、このような一人暮らしの高齢者が別の借家に入りたいと思っても、OKしてくれる家主はいないことです。このような人に文化住宅などを貸すとね、結局家主さんが最後を看取らないといけない、又は特別養護老人ホームへ入ってもらうなどの処置をしなくてはいけない、だから貸さない、ということです。

月収十二万円で家賃八万円では・・・

司会 この借家で立ち退き要求をうけたのは、四人だけだったんですか。

上原 六軒立ち退き要求された(地震後すぐ出た方もあったが)、そのうち四軒が私のところへ来ました。調停の中で、私たちはこの近くで月三万円から四万円の家賃のところがあれば立ち退きの検討をしますよ、と家主さんにいっておったのです。家主さんが調査して言うには、このあたりでは、一番安いところで家賃が八万円ぐらいです。大体は八万円から十三万円の間でその他は見つかりませんでした、とのことでした。
 十二万円しか収入のない人から家賃八万円引くと四万円しか残らない、それでは暮らせません。この例でもわかるように、どうしても災害公営住宅をたくさん造り、これらの人々の受け皿にならなければ、尼崎の一人暮らしのお年寄りは生活ができないのです。

司会 わかりやすいですね。こういう風に具体的に言われるとね。災害公営住宅をもっと多く建てよという主張に説得力が出てきますね。

上原 次の例ですが、尼崎駅の近くでもう二〇年以上ここに暮らしておられる老婦人の問題です。ご主人もこの借家で亡くなられ、子供達もそこで大きくなり、今では別所帯を持っているのですが、子供達には給料が安いので頼れない。といって、子供たちがそういう文化住宅には一緒に住めない。そういうなかで、老婦人が借家を明け渡せとの訴えを受け、困っているのです。

司会 低賃金、低福祉が生み出している具体例ですね。

四戸のワクしかない障害者等むけ市住入居の「優先権」

上原 このように、尼崎でも一人暮らしのお年寄りなどの弱い立場の人が困っています。そこで、借地借家人組合が年寄りには特別に災害公営住宅が必要だと、一〇月一三日に市に申し入れたんです。

司会 あ、この申し入れ書ですね。お年寄りのほか、障害者の例はどうですか。

上原 ええ、これは昭和通りの二階建ての借家の人ですが、五七歳で生活保護を受けている方です。これも家が損壊したんですが、この方には家主は新しい家を建てても貸さないんです。それはこの方が一人暮らしで、話は出来るんですが、精神的障害もあるためです。新しい家をさがすのですがなかなか見つかりません。又見つかっても、家主が拒否してくるのです。本来は当然公的援助が必要なケースです。市があき住宅の募集をしましたね。それに身障者、生活保護受給者と五五歳以上の高齢者に優先権があると書いてあったので、この方を応募させたのです。しかし市会議員に聞くと、四戸しか枠がないというんです。だから申し込んでもまず当たらないということです。

司会 優先権といっても名目にすぎないわけですか。

上原 そうです。生活保護収入程度の低所得者や、心身に障害のある人、そういう人たちが一番救われない立場に立たされているんですね。
 災害公営住宅をつくって、弱い立場の人を優先的に入れると言うんですが、現実は切り捨てられているのです。その人たちは自分で頑張って行かざるを得ないと言うことです。それでもこのケースのように、弁護士がつけられるのは、まだしも幸せな部類です。
 借地借家人組合に入り、そこで弁護士をつけて争うと言う人達はまだ少数です。他の人達は一体どこへ消えて行ったのかというのが問題です。
 家賃の問題では、今までは三万円のところで、運良く次の住宅が見つかっても、市内で一番安いところでも六万円以上いるというんです。このごろは、敷金は全額返し、立ち退き料としては二十万円から五十万円の範囲が多いのです。
 家賃が三万円のところから六万円になったとしたら、その立ち退き料は数ヶ月で全部消えてしまう、あとは家賃の負担だけが重く残ってくるという状況です。

住宅問題解決のカギ

司会 家賃の問題は大きいですね。この有効な打開策はありませんか。

上原 結局この問題についての基本的な援助制度は何かといえば、借家人については家賃の半額補助、自己住宅を建てる人や家主についていえばですね、やはり建築費の半額補助ですね。そのようにすれば、民間の住宅では借家人の負担の少ない住宅もどんどん建っていくようになる。家主さんの建築意欲も湧いてくるようになります。後の半額は銀行から借りるなど資力の乏しい家主さんでも喜んで建てていくようにすべきです。
 借家人の方は例えば八万円のうち四万円の自己負担ならば、今までの三万円で、今度一万円高くなってもなんとか頑張って、汗をかいて倹約しながらでも耐えていけると思います。
 政府がそれをしないので、家主さんは、是が非でも借家人をすぐになくなってしまう端した金で、やみくもに追い出さざるを得ない状況が生まれてくるのです。借家人はただひたすら苦しんでいる状況になっています。

尼崎に阪神才代の借地・借家人組合

司会 よくわかりました。ありがとうございました。それでは今度は借地借家人組合を作られ、借家人のために大変な苦労をされている田中さんにお話をお願いします。

田中 今回の震災で家が全半壊になり住居を失った、又は住居を出なければならないという状況については、上原先生のお話の通りです。それでも私たちは二三か月もたてば一定のメドが立つのではないかと思っていました。
 私たちは建物の全半壊の問題、立ち退きの問題、建物の解体の問題などについて、市内各所で二十ヶ所以上述べ二千人以上の人達に相談会をかねた集会を開いてきました。そこで被災者の会を組織した結果、五百二十人が入会されました。
 しかし、この会費無料の被災者の会では、山積する困難な問題に対処できないということが次第に分かってきました。
 そこで六月二九日、中小企業センターに一八十人の借家人が集まり、世話人を選んで借地借家人組合を結成、千円の入会金と毎月千円の会費を払う八十人の会員を得てスタートしました。そして四ヶ月たった現在三百三十人の会員になっています。

山本 西宮・神戸などでの運動はどうなっていますか?

田中 西宮では八十名、神戸では長田に一部ありますが、無料の会なので専従者も置けないし、事務所も持っていません。やはりこれでは信頼して相談できる組織にはなりきらないですね。

司会 全国の組織との関係はどうなっていますか。

田中 全国組織に入っているのが尼崎と西宮、それに長田が二十名くらいです。阪神間にはこの三つだけです。
 尼崎の事務所では、私と被災者の女性とで、朝から晩まで頑張っています。相談には元市議のNさんと私とで毎日交代で応じています。

みんなで力だしあって

上原 この会は請け負いになっていないのがいいですね。集まってきた人達が勉強し、自分達の組合だということで、自分達のやり方で動いているわけです。

司会 役員体制や運営方針はどうなっていますか。

田中 運営委員は十五名います。相談があると一人一人では弱いですから、団結して頑張る。団結することを自分達の要求を通す第一条件だと思っています。
 裁判でもね、弁護士任せにせず、傍聴に行くとか、調停も弁護士といっしょに役員と共に参加するようにしています。弁護士に依頼し、放っておいて、解決したら「もう終わりました。ハイさようなら」となってしまいます。
 結局運動ですから、一緒に戦うことによって自分の問題となる。会費の集金も、新聞の配布も、みんなが組織をつくってね。そういうことを最初からやってるんです。

上原 田中さんは組織の神様ですよ。

司会 借地借家人組合の組織的活動についてはよくわかりました。しかしもう約束の時間が来ましたね。

山本 時間なんですが、最後に建物の被災状況と裁判の関係などについて話して頂けませんか。

上原 調停の現場でも、家主さんはこう言います。「建物は建っている。しかしこれを修繕すると、新築ないしそれに近いお金がかかる。」と。それは経済的にみても滅失しているという主張をしています。だから「家が建っていても、修繕に新築と同程度の金がかかる場合は、建物は滅失したのと同じであるから、賃貸契約は終了している。だから出て行きなさい。」と。これが家主さんが明け渡しを迫る法律上の主張なんです。
 それに対して、修繕費用はそんなにかからない、と専門家に診てもらって報告書を提出してもらう。具体的に言えば、家主さんの提出した見積り書では、修繕費が四千万円かかる。これは新築工事費に相当すると主張する。調停委員は一級建築士の述べてたことだからと信用してしまうんです。
 それに対してこちらはですね、その修繕費は四百万円にすぎない。しかも十所帯で割れば一世帯四十万円の負担にすぎないという反論をします。これにより出て行けというのを押さえることが出来るのです。今回は、司会をしてくれている佐藤さんなどの「新建」所属の建築士さんの協力がなければ、ここまで頑張れなかったというのが事情です。

山本 そういう例は何件もあるんですか?

上原 何件どころか何十件もあります。結局日曜日などをそれに当てておられるとのことです。
 医療裁判においても、医師の診断については、やはり患者側は他の医者の協力がなければ勝てない。今回の場合でも、借家人の立場に立つ建築家の協力がないと勝てないということです。

司会 私は司会ですが、私が所属する「新建」のお話が出ましたので、ただいまの四千万円と四百万円の修繕費用について説明させてもらいます。それは立場の違いなのです。四千万円と見積もった建築士は、その建物を建てたいという家主とその要望が入っているからです。それに対して私たちは、どこへも行く当てのない借家人とともに考え、基本的な安定性と最低限の生活空間を確保する立場で建物を見ています。当面安心して居住し、一日も早く災害公営住宅の建設や半額補助制度の実現に共に協力したいと考えていますから、結果が違ってくるわけです。

山本 いろいろありがとうございました。まだまだお話しは尽きませんが、時間もちょっと超過してしまいましたから、この辺で終わりたいと思います。今後の運動の発展と、被災借家人の一日も早い立ち直りを期待いたします。

(平成8年1月 都市・自治体問題研究所 季刊まちかど 震災特集 これでよいのか尼崎の震災復興)